本日9時45分。以下、ダム検証のあり方を問う科学者の会からの意見書が提出されました。
私が提出の代行を努めました。山形県議 草島進一
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2014年1月20日
山形県知事 吉村美栄子 様
「ダム検証のあり方を問う科学者の会」
呼びかけ人
今本博健(京都大学名誉教授)(代表)
川村晃生(慶応大学名誉教授)(代表)
宇沢弘文(東京大学名誉教授)
牛山積(早稲田大学名誉教授)
大熊孝(新潟大学名誉教授)
奥西一夫(京都大学名誉教授)
関良基(拓殖大学准教授)(事務局)
冨永靖徳(お茶の水女子大学名誉教授)
西薗大実(群馬大学教授)
原科幸彦(東京工業大学名誉教授)
湯浅欽史(元都立大学教授)
賛同者 125人
連絡先
〒112-8585 東京都文京区小日向3-4-14 拓殖大学政経学部
関良基 気付 「ダム検証のあり方を問う科学者の会」
電話:090-5204-1280、メール:yseki@ner.takushoku-u.ac.jp
FAX:042-591-2715
最上小国川ダム計画に関する意見書
「ダム検証のあり方を問う科学者の会」は、ダム事業の科学的な検証を求めて科学者11名が呼びかけ人となって2011年11月に発足しました。今まで、各地のダム計画に関して国土交通大臣および「今後の治水のあり方を考える有識者会議」の委員等に対して意見書等を提出してきました。
山形県は最上小国川ダムの本体工事に着手することを企図して、昨年暮れには、ダム計画に反対する小国川漁業協同組合に対し、漁業権免許更新の権限を振りかざして、交渉のテーブルに着くことを強制しました。漁業権の免許は漁業上の総合利用を図って、漁業生産力を維持発展させ、漁業調整を行うために出されるものであり、免許更新の条件としてダム計画への同意を迫ることは明らかに権限の逸脱であり、あってはならないことです。
今年1月末には小国川漁協と山形県の交渉の場が強引に設定されようとしています。東北一のアユ釣りの清流、最上小国川の清流を守るために、ダム計画絶対反対の意思を示している小国川漁協に対して山形県が形振り構わず、公権力をもって翻意を迫ろうとしています。
このダム計画は下記に述べるように、科学的に検証すれば、本来は不要なものであり、流域の安全を守る上でむしろマイナスになるものです。
山形県がダム計画に反対する小国川漁協を公権力で屈服させるという理不尽なことがあってよいのでしょうか。私たち科学者の会はこのような事態を看過することができません。そこで、今回、吉村美栄子知事に対して、最上小国川ダム計画に関する意見書を提出することにしました。吉村知事が本意見書を真摯に受け止め、最上小国川ダム計画の抜本的な見直しをされることを切望いたします。
最上小国川ダム計画に関する私たちの意見の要点は下記のとおりです。
記
1 最上小国川ダム計画は科学的な検証がされたことがない
最上小国川ダム計画は今まで手続き面では、2007年1月策定の最上圏域河川整備計画でダム事業として位置付けられ、また、2010年から2011年にかけて行われたダム検証によって事業継続が妥当という評価がされましたが、いずれも、最上小国川ダムが先にありきの検討・検証であり、科学的な視点からの検証は皆無であると言わざるを得ません。河川整備計画策定のための最上川水系流域委員会は河川工学者がダム治水論者のみで、ダム検証のために開かれた公共事業評価監視委員会は河川工学者が皆無でした。最上小国川の治水のあり方と最上小国川ダム計画の是非について、行政の立場とは別の第三者による真に科学的な検証が行われたことがありません。
「科学者の会」の今本と大熊はこれまで最上小国川の現地に入って治水のあり方を検討してきていますが、その私たちの目からすれば、山形県による最上小国川の治水計画は最上小国川ダムを造ることが自己目的化したものであり、流域住民の安全を守ることができないと判断せざるを得ません。
ダム治水論の河川工学者とダムのよらない治水論の河川工学者が公の場で真っ当な議論ができる委員会を設置して、治水計画を根本から見直すことが必要です。
2 赤倉温泉周辺の河床を高い状態に放置することは氾濫の危険を招く
最上小国川の過去の洪水で氾濫があったのは、赤倉温泉周辺であり、この付近の治水対策を確立することが肝要です。この治水対策として山形県が計画しているのは上流に最上小国川ダムを建設して、その洪水調節で水位を下げることだけであり、赤倉温泉周辺の河床はほぼ現状のまま維持することになっています。しかし、この周辺の河床は土砂堆積が進んでかなり高くなっており、このまま放置することは危険です。河床が上昇して最上小国川の水位が高いために豪雨時には周辺で降った雨水が吐き切れずにいわゆる内水氾濫を起こしていることが少なくありません。この周辺の氾濫は最上小国川からの外水氾濫よりも、内水氾濫が大半を占めています。
最上小国川の治水対策の根幹は、河床を大幅に掘削することが必要であって、河床を下げれば、最上小国川ダムなどなくても、最上小国川からの越流による氾濫も、内水氾濫も防ぐことができるようになります。
山形県は河床を掘削すると、赤倉温泉の温泉湧出量が減るから、実施できないと主張しています。しかし、次の3で述べるように、赤倉温泉の温泉湧出量を維持した上で、河床の大幅な掘削をすることは可能なのであって、山形県は最上小国川ダム推進の理由が失われることを恐れて、その検討を意図的に避けようとしています。
赤倉温泉の温泉湧出量維持をいう名目で、赤倉温泉の周辺を氾濫の危険がある状態に放置するのは本末転倒であると言わざるを得ません。
3 河床を掘削しても赤倉温泉の温泉湧出量を維持することは可能である
最上小国川の赤倉温泉周辺の河床がかなり高くなっており、上述のようにそのことが氾濫の危険性をつくり出しています。河床が高いのは赤倉橋のすぐ上流に約2mの高さのコンクリート堰があって、それが土砂の流下を妨げているからです。このコンクリート堰はかつては木製の堰であって、洪水があれば、壊れるため、土砂が堆積することがありませんでした。しかし、近年、山形県がコンクリート堰にしたことにより、土砂堆積が進み、上昇した河床面で床止めもされるようになっています。
この河床を掘削して河川の水位を下げると、赤倉温泉の温泉湧出量が減るとされています。本来は深層部から湧出する温泉と、河川水とつながる浅層地下水は全く別物であって、河川水位が温泉湧出量に関係することはないのですが、赤倉温泉の場合は岩盤の割れ目(裂罅(れっか))から出た温泉が浅層地下水面の上に乗るという特殊な地質構造になっているため、浅層地下水につながる河川水の水位で、温泉の湧出量が変化することがあるようです。そこで、湧出量を維持するために昭和初期頃に木製の堰が設置されたようです。
それならば、浅層地下水の水位を維持できる手段を講じればよいのです。コンクリート堰を撤去し、堆積土砂を掘削して河床を低下させて床止めをやり直す一方で、温泉付近は河道内の護岸近くに小幅の水路を設けて河川水を流し、浅層地下水の水位を維持する方法をとることが考えられます。その他に、コンクリート堰の代わりに洪水時には自動的に倒伏する転倒堰を設置し、洪水時以外は河川水位を高くする方法もあります。
そのような方法を導入すれば、河床を掘削しても赤倉温泉の温泉湧出量を維持することは可能なのですが、山形県は最上小国川ダムの否定につながる方策には一切触れようとしません。
4 穴あきダムは環境に大きな影響を与え、治水対策としても有効ではない。
山形県は、最上小国川ダムは穴あきダムであるから、環境にやさしいと、しきりに宣伝していますが、決してそうではありません。
第一に、穴あきダムは、魚が自由に行き来する単純な構造ではありません。洪水時に勢いよく水が流れるのを食い止める構造物(減勢工)がダムの下流直下にあり、魚が上って行くには、減勢工などを通って穴に向かわなければならず、これらが障害になる可能性があります。
第二に、既設の穴あきダム(島根県の益田川ダム)を見ると、土砂が予想以上にダムに堆積しています。特に粒度の大きい砂礫はダム上流部に堆積しやすいため、下流への砂礫の供給が減ると、ダム下流の河床は泥質化が長期的に進み、砂礫の中に産卵する魚の生態に影響が出る恐れがあります。小国川漁業が最上小国川ダムに対して断固反対の姿勢を堅持しているのは、そのようにアユ漁業にとって看過できない問題が引き起こされることが予想されるからです。
また、穴あきダムは肝心の大洪水時に役立たない恐れがあります。特に洪水が間隔を置かずに続いて来るケースは危険です。通常のダムは、職員がゲートを操作し、最初の洪水でたまった水を必死に放流して次の洪水に備えますが、穴あきダムでは、小さな穴から自然に任せて少しずつしか放流できないため、最初の洪水を処理しきれないうちに次の洪水が押し寄せ、水がダムから一気にあふれて被害が拡大することも予想されます。
さらに、穴あきダムで大雨で山腹が崩壊すれば、流木や岩が絡み合い、穴をふさいでしまう恐れもあります。
このように、環境の面でも治水対策の面でも問題が残されているのが穴あきダムなのです。
私たちの意見の要点は以上のとおりです。
以上の意見を踏まえて、吉村知事があらためて最上小国川ダム計画の抜本的な見直しについて賢明な判断をされることを強く期待いたします。